『俺の空〜アメリカ編〜』p.5

どこまでも続く青い空。
抜けるような空とはよく言ったものだ。

とにかくロスの気候は乾いている。
朝、ホテルの部屋で、昨夜食べ残した『ドリトス』を
何気なく口にした時もそうだった。
「ふぁーぁ、んーハラ減ったあ、おっ、パクッ、えっ?」
身体に衝撃が走る。
「…シ、シケってない…!」

まったく昨夜と変わらぬパリパリ感。
日本なら一晩でフニャフニャになっているはずの『ドリトス』が…。
世界にはこんな場所が存在したのか。
シケらない街、ロサンゼルス。地上の楽園である。

そんなロスの片隅、ジャパニーズビレッジ。
日本から移住した人々が初めに作った街。
今、俺が連載しているロス在住日本人向け情報誌『ラベスト』
の編集部もここにある。

編集部にお邪魔し、パソコンを借りてホームページに
LIVEの告知をした後、唄いやすそうな場所を探す。
噴水の前に腰をおろし、ギターを取り出す。

『公開スパーリングLIVE in ロサンゼルス』の始まりだ。

いつも吉祥寺で唄っている通り、『吉祥寺フェチ』という
看板を掲げ、日本語全開、オリジナル。
「アイケイムフロムキチジョージ。
チキジョージイズモーストフェイマスタウン!」

ジャパニーズビレッジとはいえ、日本人はあまりいない。
日系人や、日本文化好きの観光客達が集まる、
『明治村』や『江戸資料館』の様なテーマパークに近い。

唄っているとアジア系の女性が話しかけてきた。

「アイノウキチジョウジ」
「オー、リアリー?」
「イエス。マイスクールインキチジョージ」
「オオ、ザッツグレイト」
「ユーアーフェイマス?」
「イエース、イエース。アイムジャパニーズシンガー」
「アイムジャパニーズトゥー」

何で日本人同士英語で喋ってんだ。
しかも吉祥寺の学生だ。
吉祥寺同士がロスの空の下。
ずいぶん回りくどい出会いである。

観光客相手のみやげ物屋のオバちゃんがやってくる。
うるさいからやめろって言うのかと思いきや、
「もっと大きい音でやってくんないと客が集まらないじゃない!」
バリバリ日本語。
勝手に客引きにされている。日系人たくましい。

確かにアンプを持って来てないので、昼間の喧噪の中、
唄が届きにくい。ロスの空気に乗らないなあ。

それでもBOOMER達との待ち合わせ時間ギリギリまで唄う。
最後の曲を唄い終わった瞬間、思わぬ方角から拍手が。
見知らぬおばあさんだ。

「久しぶりに日本語の唄を聞きました。ありがとう。
また来て唄って下さい」

スッとドル紙幣を渡される。

よっしゃ、もう一回明日唄ってやる!

その声を聞いて『ラベスト』編集長が言った。
「ホントに明日もやりますか?」


…つづく。