『俺の空〜アメリカ編〜』p.1

ガクン!
階段を一段だけ踏み外した時のような軽い衝撃と共に、俺は目を覚ました。
半開きの目を擦りながら横を見ると、隣には見知らぬ黒人男性。

「えっ?誰?何?何処?」

あわてて身体を起こそうとするのだが、何故か俺の身体はガッチリと
括り付けられ身動きが出来ない。

「どどどどどう言う事だ?おい、思い出せ!何があった!うん。そーだ。
ま、まずは落ち着け。タバコだ。一服しよう。どこだタバコは。確か、
あ、あった。よしよし。一本取って、火を…、
あっダメだ、禁煙のサインが…、タバコの絵の上にバッテンが着いてるよ。
だから飛行機はヤなんだよ、あっ飛行機!」

ようやく気付いた。
心は上の空。身体は空の上。
俺は今、成田からロサンゼルスに向かう飛行機の中にいたのである。

「いやー、ホントに来ちゃったよ。」

予定外の行動、無計画な海外。
ほんの二日前までは、ロスという言葉さえ知らなかったのに、
今はロスを目指し機内にこうして座っている。
人生どこにきっかけが転がってるか分からないものだ。

さっきからのあわてっぷりを不審な目で見つめる隣の黒人男性をよそに、
俺は二日前の出来事を思い出していた……。



「ここが六本木かー。
はぁー、まんずまんず、夜だっつーのにネオンさキラキラだべー」

めったに訪れる事のない街、六本木。
今思えば、あの時の俺はかなり興奮していたのだろう。

六本木に来たのは、ある男に会うためだ。
『伊勢浩二』
…コントに魂を売った男、全身コント番長、LOVEコント色、
など数々の異名を持つ、骨の随までどっぷりコントに浸かった芸人である。

そいつが今夜、六本木でコントをやると言う。
それは是が非でも、女房を質に入れてでも駆け付けなくては。

しかし、俺には質に入れる女房がいない。
大慌てで、好意を持つ女性にプロポーズ。
あっさりと断られ、次の女性へ。また断られ、さらに他の女性へ。
同じ事を何度もくり返し、101回目のプロポーズを渋々OKしてくれた彼女と
ひとまず籍だけを入れ、「式は追々」となだめつつ、すぐに質屋へ。
あせる姿に足元を見られ、わずかばかりの金を手に六本木に着いたのは、
夜も10時を過ぎた頃であった。

店のドアを開き店内へ。
ビールを注文し、奥の席に腰を掛ける。
ちょうど一杯目のグラスが空になったのを待つかのように、
彼のコントが始まった。

…つづく